こんにちは、山田です。
お待たせ致しました(誰も待ってない)。
本日はRADWIMPSの野田洋次郎さんのソロプロジェクト"illion"の最新アルバム『P.Y.L』のレビューでもしてみようかと思います。このアルバムのリリースが10月12日という事で早1ヶ月が経ってしまいた。僕自身、発売日の前日には手に入れて聴いていたのですがブログを書くにあたり1ヶ月という間が空いてしまったのには理由があります。簡単には咀嚼させてくれないアルバムだったからです。実際、初めて聴いた時に思わず口から出た言葉は「ヤベェ……」ただそれだけでした。本当はEPという形で発売すると決まっていたのですが、洋次郎さんが「アルバムにした方が絶対に良い!」と無理を言って発売が見送られアルバムになったという背景もありますからかなりの意欲作だという事は聴く前から分かっておりました。illionを少しまとめながらアルバムに触れていきたいと思います。

1stアルバム『UBU』から3年半
"illion"とはRADWIMPSのフロントマンである野田洋次郎さんのソロプロジェクト。2012年に活動が発表され、2013年に発売された1枚目のアルバム『UBU』は世界各地で発売され話題になりました。

とは言いましても、illionの原型が生まれたのは2011年のことです。当時、RADWIMPSは『絶体絶命』というアルバムを発売、その2日後にあの東日本大震災が発生し日本が混乱と不安定で揺らぐ中で『RADWIMPS 絶体延命ツアー』を行なっていました。ツアー終了後、メンバーには休息が必要だと感じた洋次郎さんはその当時の感情を形にしなくちゃという気持ちに駆られ1人スタジオに籠って音楽を作り続けていました。それが最終的にillionという一つの形を成すことになるのです。 そんな背景からか1stアルバム『UBU』はRADWIMPSとは違うかなり繊細で神経質なアルバムという印象を受けます。

2ndアルバム『P.Y.L』の立ち位置
前作『UBU』から3年半というこの時間で野田洋次郎さんの中でのillionの位置付けがかなり変わったというのはアルバム『P.Y.L』を聴いてもはっきりと分かります。震災でのドロドロした感情を浄化したものが『UBU』なのだとしたら、今作『P.Y.L』は野田洋次郎の実験場。遊び場と言った方が伝わりやすいかも知れません。今年、様々な活動を発表したillionでしたが音楽で遊ぶわ、映像で遊ぶわで自由気ままに遊んでた印象を受けます。東京と大阪で初めての日本ツアー『illion Japan Tour 2016』も行なったのですがそこで触れたillionの自由な空気感はとても新鮮なものでした。

ニューアルバム『P.Y.L』を聴いた
このアルバムは前述したようにかなりの実験だった思います。そして果てしない音楽の探求の末に生まれた紛れも無い名盤だと思うわけです。新たなる音楽の表現を提示された感覚です。トラックメイキングとサンプリングをベースとした手法から生まれた音楽はジャンルも国籍も超越するようなインパクトをリスナーに与えたのではないでしょうか。

今回のillionは『UBU』の頃とは違いかなりエレクトロニックです。先行配信された「Water lily」が見事にその代名詞になってくれました。不思議な曲です。曲の終始で陰鬱なビートが刻まれているはずなのに何とも心地の良いサウンドになってしまっていて、水面に浮かぶ色鮮やかな睡蓮の繊細をも手に取るように感じる事ができるほど透明感ある楽曲に仕上がっているのです。

illion「Water lily」Music Video


その後、先行配信された「Hilight feat.5lack」やYouTubeで少し解禁された「Told U So」を聴いた時に"踊れる音楽"というEDM的なイメージが自分の中で芽生えました。アルバムを実際に手にした僕はヒップホップサウンドに身を任せる気満々でCDをオーディオに入れて、最初に放たれる一音を待ちました。ただ放たれた一音は僕の期待を大きく覆すものでした。静かなピアノのイントロでした。「Miracle」という曲です。illionの再起動のきっかけとなったこの「Miracle」は素晴らしい広がりをするピアノストリングが印象的で且つ『UBU』を彷彿させるもので鳥肌が立ちました。illionは単に エレクトロサウンドに目覚めただけでは無いという事をこの1曲で思い知らされた感じがしましたね……。

illion「Miracle」Music Video


前作『UBU』では洋次郎さんが1人で創ってる感が凄くあったのですがこのアルバムは全くの逆。illionという組織で創ってるイメージがあるんです。「Hilight feat.5lack」なんて曲はまさにそれを裏付けるものではないでしょうか。以前『Rolling Stone Japan』で洋次郎さんと対談したラッパーの5lackさんとコラボレーションしています。この対談から一気に仲良くなったらしくお互いのワンマンライブに呼び合うほどに(笑)MVにはこの曲を聴いて感化された俳優の松田翔太さんまで参加しちゃって「どうなってんの」て感じですがこれがまた良い。

illion「Hilight feat.5lack」Music Video


アルバム『P.Y.L』というタイトルにはどのような意味合いがあるのでしょうか。どうやら「不老不死」という意味らしいです。前作が「初心」という意味の『UBU』だったのにも関わらずもう不老不死です。アルバムの6曲目には「P.Y.L」という曲があります。人類で初めて永遠に生きることができるようになった(=不老不死)"君"に僕が語りかけるような曲です。曲の最後に「(永遠に生き続けることになって)悲しい?悲しい?」という英詞が出ています。「悲しい?悲しい?」という問い詰めは皮肉のようにも感じます。何となくですがこの「P.Y.L」の主人公には不老不死に対する一抹の憧れも感じられる気がします。不老不死をどちらの側面で捉えるかでこの楽曲、そしてこのアルバムの捉え方が変わっていく気がします。

「Dream Play Sick」という他の作品とは一風変わった曲もあります。直訳すると"夢遊病"。睡眠時遊行症 とも言ったりします。歌い方が特徴的で言葉がぶつ切りになっています。歌詞カードでの扱いも不思議で一言一言の間に広く空間が保たれています。

あぁ       あぁ       夢が醒めたら        あぁ

この楽曲で更にこのアルバムの振り幅が広がったようにも感じました。

その後にも「Wander Lust」といった打ち込みビートが特徴的で英語と日本語の使い分けに感服させられるような楽曲があったり、「Strobo」のようなハープで美しく魅せる楽曲。そして実質的な歌モノの最後に「Ace」というピアノサウンドの曲でアルバムの頭の「Miracle」に少し帰ってきたような気分になったりと感情があっち行ったり、こっち行ったり。因みに最後にはインストゥルメンタル楽曲の「BRAIN DRAIN [Linn Mori Remix]」という『UBU』に収録された「 BRAIN DRAIN」という曲をミックスしたものが入っていてこちらも聴き応えあります。全11曲というフルアルバム。これまでとは全く違う手法を用いての音楽表現は野田洋次郎さんの新たな武器になったに違いないでしょう。

"illion" と "RADWIMPS"
最後にillionとRADWIMPSを繋げて少し話したいと思います。RADWIMPSが音楽を担当した『君の名は。』が世界的な大ヒットを飛ばしてる中、発売も間近に迫ってきたRADWIMPSのニューアルバム『人間開花』。illionの『P.Y.L』の制作が本格的に始まったのが今年の春頃ですから『君の名は。』の劇伴が終わった直後から取り組んでいたということです。RADWIMPSの音楽を作る休息としてillionで音楽を作る。「は?」と開いた口が塞がらない僕みたいな凡人を余所に洋次郎さんは作品を産み落とし続けるのです。

RADWIMPSのニューアルバム『人間開花』が開けたアルバムという言い方をされていますが、僕からしたらこの『P.Y.L』もある意味開けている気がするのです。原田郁子、Aimer、5lackというゲストボーカルを迎い入れたことは洋次郎さんが何よりも開いた証拠ではないでしょうか。

僕がこのアルバム『P.Y.L』の本当の凄さを感じたのは先日のラジオでRADWIMPSの新曲「」が初公開された時のことです。映画『君の名は。』の輝きをそのまま背負って放たれたあの爆発的な光を作った人物と『P.Y.L』を作った人物が同一人物とはとても思えなかったのです。この「光」という新曲が「おしゃかしゃま」のような音楽的に複雑な構造のものだったらそこまで驚く事もなかったのでしょう。ただ「光」はこれまでにないくらいシンプルでストレートなバンドサウンドに仕上がってました。illionで音を探求し重ね合わせ、切り離し、繋げ合わせていた『P.Y.L』とは対極なのです。 この振り幅の大きさは野田洋次郎という人間の創造性、独創性だからこそ出せたものなのでしょう。

illionとRADWIMPSの音楽は洋次郎さんの中で音楽が生まれてくる位置が全く違うらしいです。だから生まれた音楽が対極にいるのは当然なことかもしれません。ですが、これの両者が同時期に同一の人物によって創り出されたのだと思うと武者震いがするのです。この驚異的な音楽の振り幅がいつまでもリスナーを飽きさせず、決して離さないRADWIMPS、野田洋次郎さんの魅力の1つなのかもしれません。(やまだ)
  
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