今年でソロデビュー30周年の真っ只中にいる桑田佳祐が全国アリーナ&5大ドームツアーを行っている。因みに5大ドームを2度も行うのは男性ソロアーティストとして史上初の快挙だ。桑田は今年の7月に突如、Billboard Live TOKYOで2日間限定の超小規模の超激レアライブを敢行し、ソロワークスとして通算5枚目となるオリジナルアルバム『がらくた』をリリース。8月にはソロとして15年ぶりに『ROCK IN JAPAN FES』のステージに降り立った。10月からは朱鷺メッセ・新潟コンベンションセンターを皮切りに全国アリーナ&5大ドームツアー『桑田佳祐 LIVE TOUR 2017「がらくた」』をスタート。そして11月11日、12日には東京ドームでの公演が行われ、約11万人を動員。この記事では僕が行かせて頂いた東京ドーム最終公演の模様を覚えている範囲内でレポートしていきたいと思う。

桑田佳祐ソロとして2002年以来となる東京ドームでの公演。この日、会場に駆け付けた5万5千人の期待と興奮が開演前から会場に満ち満ちていた。ライブ開始のアナウンスが流れると会場からは待ってましたと拍手が起こる。開演予定時間の17時に会場が暗転。「しゃアない節」のイントロが鳴り響くと大歓声が上がる。マイクスタンドの前で揚々と歌う桑田佳祐(Vo.Gt.)は黒いハットを被り、黒いジャケットに身を包んでいる。この唄に乗せられた言葉たちが不思議と『がらくた』に通じるノスタルジーを匂わせる。2曲目は「男達の挽歌 (エレジー)」。サビで桑田はクラップを誘い、会場もそれに呼応する。絶賛公開中の映画『茅ヶ崎物語〜MY LITTLE HOMETOWN』の主題歌にも起用された「MY LITTLE HOMETOWN」が披露されると会場は温かい雰囲気に包まれた。

「ウィーッス!!!!8時だよ!?」と桑田のいきなりの振りにもファンは「全員集合!!!」と対応する。かぶっていたハットをスタッフに渡すと手鏡で自分の生え際を確認し「ちょっとズラがね…」と笑いを誘う場面もあった。「ウィーッス!!"本田圭佑"です。2年ぶりに東京ドームさんのステージに立たせて頂きます」と桑田。2015年にサザンオールスターズとして行ったツアー『おいしい葡萄の旅』で東京ドーム3daysを成功させたのはファンの記憶に新しいだろう。「今日のために体調を整えて参りました。2週間ほど前に内視鏡検査をしてきました……大丈夫でした!皆さんのお陰です。ありがとうございます」 と桑田がグッドサインを贈ると温かい拍手が送られた。ステージでパフォーマンスをする桑田を見ているとついつい忘れてしまうが、7年前に食道がんを患って歌手として、桑田佳祐としての最大の危機に直面した過去がある。それはソロとして4枚目のアルバム『MUSICMAN』をレコーディングしている最中の出来事であった。そんな背景を知っているからこそソロとしての新作『がらくた』が届けられた事、"今日"という日を迎えられた事はファンにとっても桑田本人にとっても特別な事なのだ。MCの後半ではアリーナ席の客にマイクが渡されての"質問コーナー"が設けられファンと触れ合う場面も見られた。

最新作『がらくた』を引っさげてのツアー。早速「愛のプレリュード」「愛のささくれ〜Nobody Loves Me」とアルバムの収録曲が次々と披露されていく。初々しい愛の前兆から悲哀な男の性愛までを歌いあげる貫禄は流石としか言いようがない。そしてこの日の桑田佳祐は凄かった。MCでの「体調を整えてきました」は伊達では無いと確信した。声も身体も絶好調の桑田佳祐がそこにはいた。UCCのCMソングとしても話題になった「大河の一滴」では四つ打ちの打ち込みサウンドと共に桑田の歌声は更に力強さを増していく。 1本の薔薇が枯れて朽ちていく映像から簪 / かんざし」のイントロが始まり、先程とは対照的な抑制された歌声が儚く切ない。軽快なブラス・サウンドから始まったのは報道番組の為に書き下ろされた「百万本の赤い薔薇」。西村浩二(Trp.)の奏でるトランペットのサウンドと他楽器隊とのアンサンブルが実に心地良い。「あなたの夢を見ています」ではダンサーが登場しステージをウインター色に彩る。TIGER(Cho.)の圧倒的な歌声と片山敦夫(Key.)の奏でるキーボードの音色が妖艶に混じり合って「サイテーなワル」のヘヴィーなバンドサウンドへと繋がる。スクリーンにはカメラのレンズが映され、LINEのトーク画面や新聞紙、女性のヒップラインなどが写されては消えてゆく演出がされた。今年は"文春砲"や"ゲス不倫"などの言葉が飛び交うくらい著名人の裏の顔が嫌というほど暴き出された年であった。そんな現状を危惧するかのように桑田から贈られたこのロックチューン。アウトロに 河村"カースケ"智康(Dr.)によるドラムソロが追加されていたのが印象的であった。
次のMCではサポートメンバーの紹介が行われた。河村"カースケ"智康、はたけやま裕(Per.)、山本拓男(Sax.)、西村浩二、金原千恵子(Va.)、TIGER、佐藤嘉風(Cho.)、角田俊介(Ba.)、中重雄(Gt.)、斎藤誠(Gt.)と10人の一流のミュージシャンが顔を揃えた 。金原千恵子は林家パー子のモノマネをしたり、佐藤嘉風とTIGERはデュエットで「幸せなら手をたたこう」を披露、中重雄は桑田からの注文で加山雄三の「夜空の星」を弾いたり、斎藤誠は桑田から「童貞じゃないの!?」と訊かれ「5万人の前でやめて下さい(笑)」とたじろぐなど、個性豊かなメンバー紹介が行われた。

アルバム『MUSICMAN』から「古の風吹く杜」と「悲しみよこんにちは」が続けて披露されたかと思うと、これがライブ初演奏となった1988年のナンバー「Dear Boys」の演奏が始まると会場からはどよめきが起こったりなどもした。子どもの視点で描かれた物憂げな歌詞が印象的なこの曲はソロだからこそ作れたものだという桑田の自己評価が頭をよぎる。

雨音が響く夜の東京の街に金原千恵子のヴァイオリンの音色が妖しく響くと今回のライブでは初めてエレキギターを下げた桑田がゆっくりと「東京」を歌い出す。徐々にサウンドは厚さを増していき壮大なバンドサウンドへと変化していく。東京ドームという場所がそうさせたのか「東京」という楽曲そのものが桑田佳祐に憑依し『がらくた』では描かれなかった側面を露骨にさせているようだった。「東京」の演奏が終わると82年に桑田が中村雅俊に楽曲提供をした「恋人も濡れる街角」の一節を東京に因んだ替え歌で披露された。僕はこの歌詞までを記憶していなかったがこちらのサイトに表記があったので、引用させて頂く。 (引用元はページ下記に記載)東京は今 / どんどん街が変わる オリンピックが始まるんだなぁ / あっという間に変わる街 東京都…東京都?…京都かいっ!!》ギャグを織り交ぜながら演奏曲は「Yin Yang」へ。ステージではこの楽曲のMusic Videoで見たような銀色の全身タイツに身を包んだダンサーや風船を持ったウサギの着ぐるみなどが登場し一気にカオスな世界観が出現した。桑田の横では2人のダンサーが妖艶な踊りを見せ、曲の終了後には片方の女ダンサー(佐藤郁実)に桑田が「あれ…ヨシ子だよね?ヨシ子だよね?」と詰め寄るシーンもあった。
曲が終了し、スクリーンに映し出されたのは桑田佳祐が扮した"稲川ジェーン"なる人物による怪談話。因みに一応説明しておくと稲川淳二と桑田が過去に監督を務めた映画『稲村ジェーン』を組み合わせた造語である。映像の最後には《こんな男のために》という「君への手紙」の一節を引用して30年間の感謝の言葉が映し出されると会場からは「こちらこそありがとう!」などといった声援と拍手が飛び交った。

アコースティックギターのストロークから「君への手紙」の演奏が始まると、入場時に一人一人に配られた"がらくたライト"がオレンジ色に点灯し東京ドームを包み込んだ。あまりの美しさに会場からは思わず吐息が漏れる。桑田佳祐から5万5千人の"君"に向けられた歌声は手紙となって確かに届けられた。MCでも桑田は「こんな歌い手の為に本当に皆さんありがとうございます」と深々と頭を下げて「60になっても、まだまだ"ひよっこ"」という言葉と共に「若い広場」が披露された。これまでの人生で触れ合ってきた人々や場所、やんちゃに過ごした青春の時代をナイーブに回想して一通り涙した後に自分を待つ誰かの為にこれからの人生を歩んでいくという切なくも力強い、今の桑田佳祐だからこそ歌えた名曲だ。 言うまでもないが今年大ヒットしたNHKの連続テレビ小説『ひよっこ』の主題歌として本当に多くの人々の心を揺れ動かした。《肩寄せ合い / 声合わせて / 希望に燃える / 恋の歌》というフレーズでは大合唱が起こりこの曲がこの1年でどれだけ愛されたかを思い知らされた。「ほとどぎす [杜鵑草]」では桑田のファルセットが何処までも透き通り、この楽曲に込められた別れの情緒を日本語でしっとりと響かせた。

ここで桑田は一旦ステージからフェードアウト。楽器隊によるレッド・ツェッペリンの「Moby Dick」のカバーが披露された。アレンジが加えられ、それぞれのパートがソロで曲を繋いでいく。圧巻の演奏はそのまま曲「過ぎ去りし日々 (ゴーイング・ダウン) 」へ。再びステージに現れた桑田は丸メガネにシルクハット、背中にはマントという服装。とても61歳とは思えない桑田佳祐のヤンチャ振りからはあの若い頃の過ぎ去り日々を何とかこの瞬間だけでもいいから取り戻そうとしているようにも見えた。「オアシスと果樹園」からの盛り上がりではいよいよライブが終盤に差し掛かっているのだと感じ、そして「 悲しい気持ち (Just a man in love)」のあのイントロが鳴り響くと間違いなく今日一番の大歓声が上がった。1987年にこの曲で桑田佳祐はソロデビューを果たした。スクリーンにはその頃の写真から現在に至るまでの桑田佳祐の写真がスライドショーのように映し出され、30年という月日を痛感させられるような感動的な演出が施された。感動と興奮の余韻に浸る間も無く「波乗りジョニー」と「ヨシ子さん」が演奏され、クラップとコールアンドレスポンスで会場の盛り上がりは最高潮に達した。「ヨシ子さん」ではアニメで見るような魔法のランプや信楽焼、そして佐藤郁実の扮する"ヨシ子さん"がステージに登場。無国籍で奇想天外なパフォーマンスが展開され本編のラストを飾った。
アンコールで桑田とサポートメンバーが登場するとライブでも定番ともなっている「ダーリン」「銀河の星屑」、そして国民的大ヒット曲「白い恋人達」が披露されると会場は感動に包まれた。「もっと行く!?もっとはしゃいでくれる!?」と桑田が客を煽ると「祭りのあと」のイントロが鳴り響く。もう惜しみのない名曲のオンパレードにため息しか出ない。桑田佳祐というシンガーがソロとしてもこれ程までに多くの人からの支持を得て、今も多くの人々に愛されている理由がこの瞬間に詰まっている、そんな気がした。そして2時間30分に渡るライブの最後を飾ったのは名曲「明日晴れるかな」だった。歌い出しは桑田のアカペラ。そこにピアノ、ベース、コーラスが加わっていきサビで壮大なアンサンブルとなり融け合う。最後の最後はオーディエンスが一体となり「明日晴れるかな」と囁き、その様子を笑顔で受け止めた桑田佳祐は《"東京"の空の下》とゆっくりと5万5千人を包み込んだ。そして桑田は何度も何度も「ありがとう」という言葉を口にしてステージを去っていった。

物凄い一夜に遭遇してしまった。『がらくた』という傑作が本当の意味で完結した瞬間であったような気がする。桑田が約40年間の音楽活動で追求してきたライブの魅せ方のノウハウが詰まっていたのだ。そして桑田佳祐のライブはただただ楽しいお祭り騒ぎで終わる代物ではない。会場にいる一人一人が抱えた悲しみや虚しさに寄り添ってくれる繊細さがそこにはある。その事を誰よりも大切にしているからこそ、桑田佳祐は今回のツアーで厳選したこの28曲を届けたのだと思う。年末には横浜アリーナでの年越しライブも控えている桑田。これからもこのツアーで多くの人々を感動の渦に巻き込んで行くに違いない。(やまだ)


桑田佳祐 LIVE TOUR 2017「がらくた」
11.12 (Snu.) at TOKYO DOME

1. しゃアない節
2. 男達の挽歌 (エレジー)
3. MY LITTLE HOMETOWN
4. 愛のプレリュード
5. 愛のささくれ〜Nobody Loves Me
6. 大河の一滴
7. 簪 / かんざし
8. 百万本の赤い薔薇
9. あなたの夢を見ています
10. サイテーのワル
11. 古の風吹く杜
12. 悲しみよこんにちは
13. Dear Boys
14. 東京
15. Yin Yang
16. 君への手紙
17. 若い広場
18. ほととぎす [杜鵑草]
19. 過ぎ去りし日々 (ゴーイング・ダウン)
20. オアシスと果樹園
21. 悲しい気持ち (Just a man in love)
22. 波乗りジョニー
23. ヨシ子さん

En.1 ダーリン
En.2 銀河の星屑
En.3 白い恋人達
En.4 祭りのあと
En.5 明日晴れるかな




引用先 : 桑田佳祐、『LIVE TOUR 2017 「がらくた」』東京ドーム2日間で11万人が大熱狂! http://top.tsite.jp/news/j-pop/i/37726554/