行定勲監督の映画『ナラタージュ』を観てきた。主演は嵐の松本潤。ヒロインは有村架純。原作は2005年に出版された島本理生の恋愛小説である。詳しい内容などをここで記載するとキリがないので控えるが、筆者はスクリーンで展開される人間ドラマに思わず目を奪われた。恋愛を軸に動いていく訳だが、それだけでなく人間が抱える影の部分であったり、社会風刺的な要素も垣間見えるので、気になってる方々には是が非でも観ていただきたい。

この映画の主題歌を務めたのがadieuという女性シンガーである。この情報が解禁された時は聞き慣れない名前に思わず首を傾げたものだ。実はadieuとは今年デビューした都内の高校に通う17歳の女子高生であり、この「ナラタージュ」が彼女にとっての1stシングルに該当する。それ以外のプロフィールが一切公表されてないという謎多きシンガーだ。この「ナラタージュ」の作詞作曲を手掛けたのがRADWIMPSのボーカル、野田洋次郎である(働きスギィ!)


(「ナラタージュ」予告編)


RADWIMPSと言えば昨年公開され、社会現象とまでなった映画『君の名は。』の音楽を担当し、同年には3年ぶりのアルバム『人間開花』をリリース。年末には紅白歌合戦に出場。今年はアルバムを提げたライブツアー『Human Bloom Tour 2017』を見事に成功させ、Newシングル『サイハテアイニ / 洗脳』をリリース、この夏は国内に留まらず海外のロックフェスにまで出演を果たすという、RADWIMPS史上最高のスケールで活動を展開している。

野田は現状を"創作モード"と謳う。比喩ではなく常に音楽を作り続けている。野田洋次郎が女性シンガーに楽曲提供するのはそう珍しい話ではない。近年でいうとAimer の「蝶々結び」、さユりの「フラレガイガール」などは記憶に新しい。同一人物が手掛けたとは思えないような振り幅に感服するばかりであったが、映画の為に書き下ろされた今回の「ナラタージュ」にはノックアウトさせられたと言っても良いだろう。

このadieu「ナラタージュ」で掲げられているコンセプトは"時を止める歌声"。静かな歌い出しから思わず息を飲んでしまう。彼女の儚く脆い、それでも力強く凛とした歌声がストレートに響き渡る。商業的な話ではあるが、プロフィールを殆ど公表しないという特殊なプロモーション方法が完全に良い方向に働いている。

野田洋次郎が手掛けた歌詞だが、ここにもナラタージュ的な手法が用いられている。《あなたが見つけ出してくれたこの心を / あなた無しでもわたしは離さないよ》"わたし"が過去に大切にしていた"あなた"という存在に想いを馳せ、回想しながらも、それを"思い出"に閉じ込めて静かに明日へと踏み出す姿が描かれている。だからこそ大切に仕舞い込んだ"あなた"に向けた「さようなら」は何処までも儚く切ない。きっとそんな野田洋次郎が音楽に託した言葉が『ナラタージュ』の中で美しくもがき続けた登場人物たちの背中を押してくれているような気がする。

「ナラタージュ」はadieuの歌声と野田洋次郎が仕掛けた言葉の魔法が奇跡的なマッチングを魅せ、珠玉のスローバラードとして仕上がっている。きっとこれから映画『ナラタージュ』を観る多くの人々の心を揺らし続けるのだろう。(やまだ)