日本最大級のロックフェス『ROCK IN JAPAN FESTIVAL (ロッキン)』今年も錚々たるアーティストが名前を連ねていた。そんなロッキンだが出演アーティストの最終発表で"爆弾"が投下された。そう、桑田佳祐だ。フェスで桑田佳祐!?これは事件だ。桑田佳祐がソロでロッキンに出演するのは15年ぶりの事となる。今年ソロ活動30周年を迎えるとだけあってアルバム『がらくた』やアルバムを提げた全国ドームツアーと精力的な活動を展開している桑田。日本屈指の夏男が夏フェスに降臨すると言うのだから、家で黙って指を咥えている訳にもいかない。今回のブログではその圧巻のステージを完全レポートしていきたい。


2017.08.06 (Sun.)
ROCK IN JAPAN FESTIVAL.2017
GRASS STAGE 18:30
桑田 佳祐

1. 悲しい気持ち〜Just a man in love〜
2. 恋人も濡れる街角〜スキップ・ビート
3. 愛のささくれ〜Nobody loves me
4. 大河の一滴
5. 東京ジプシー・ローズ
6. 東京
7. 若い広場
8. オアシスと果樹園
9. 波乗りジョニー
10.ヨシ子さん
(encore)
11.ROCK AND ROLL HERO
ロッキンの数あるステージでも約6万人を収容する最大規模のキャパを誇るのがこのGRASS STAGE。WANIMAやエレファントカシマシ、[Alexandros]、ゆずといった人気アーティストが出演していた。このGRASS STAGEのトリであり、ロッキン2日目全体のトリを務めたのが桑田佳祐なのだ。

桑田佳祐を一目見ようと会場に駆けつけた6万人がその時を待つ。時間になりスクリーンに「桑田佳祐」の4文字が表示されると、会場から嬉し悲鳴が巻き起こる。オープニングを飾ったのは「悲しい気持ち〜Just a man in love〜」!! 桑田が登場するとオーディエンスの熱は早くも急上昇。1曲目を歌い終えると「恋人も濡れる街角」のワンフレーズが替え歌で披露された。《2日目の今日…最後まで聴いてくれるかい??》その問いかけに大声で応える観客。《B’z…RADWIMPS…ゆず…サカナクション…そっちの方が全然良いと思うけどね》と笑いを誘う。そのまま2曲目の「スキップ・ビート」へ。オーディエンスも心地良さそうに身体を揺らす。 片山敦夫の奏でるキーボードの音色は何処か懐かしさを感じさせながらも決して色褪せる事を知らない

「じじいがどうもすみません」と照れ臭そうにペコリと桑田は頭を下げると今回のロッキン出演に至った経緯を話し始めた。「渋谷陽一っていうサザンのデビュー当時からお世話になってる人がいて、会うたびに"出ろよお前"と言われて…。それで出ることになったら"短めにやれよ"っていう」「渋谷社長…惜しい人を亡くしました」という冗談に会場は笑いに包まれる。開始10分足らずで既にロッキンを自分色に染め上げる腕は流石としか言いようがない。「短めにやれって言われたんですけど、ムカついたんで4時間くらいやります!!」もう完全に桑田のペースである。
聴き慣れないイントロが流れ出した。アルバム『がらくた』に収録される新曲「愛のささくれ〜Nobody loves me」である。筆者はここで初めてこの曲を聴いた。ジャジーでお洒落なサウンドが実に色っぽい。続けて演奏されたのは「大河の一滴」UCCのCMでも同じみだったこの曲。衰えぬストロングな歌声が響き渡る。5曲目はなんと「東京ジプシー・ローズ」なかなかマニアックな選曲である。このライブアレンジがまた秀逸である。ベース、ピアノ、フルート、バイオリンの妖艶な音色が美しく調和し、聴き惚れるばかりだ。桑田佳祐に対して明るいポップなイメージを持っていたライト層の方々は虚を突かれた気分だったかもしれない。そのまま「東京」へ。東京という街を桑田独自の視点から紐解いた哀愁漂うブルースである。いつの間にか陽が完全に沈み辺りが暗くなっていた。会場の向かいの空には満月が浮かび、実に幻想的な空間であった。

ロッキンが開催されているのが茨城という事でMCの話題は同じ茨城を舞台としたNHKの朝の連ドラ『ひよっこ』に。このまま「若い広場」の流れであったが、機材トラブルでなかなか曲に行けず「6万人の前で困ってるって無様でしょう?」と桑田。話題は変わり他の出演アーティストの話に。ゆずの20周年を祝い、[Alexandros]のあまりの演奏の上手さに楽屋で落ち込んだという笑い話でその場を繋いでいく。エレファントカシマシの 宮本浩次を最高のボーカリストと評し、彼とのエピソードを披露した。

「みんなで一緒に歌ってくれっぺよ〜」という桑田の呼びかけで演奏されたのは新曲「若い広場」。先ほどのダークチックな色合いとは対照的な暖かで柔らかなサウンドが響き渡る。スクリーンにはこの曲のみ歌詞が表示され、全員が歌詞を見ながら歌う事ができるという配慮がされていた。《肩寄せ合い / 声合わせて / 希望に燃える / 恋の歌》というフレーズはこのフェスの為に用意されたのではないかと錯覚してしまうほど奇跡的なマッチングを見せた歌詞であった。まさに桑田佳祐にとってあの会場は"若い広場"だったのかもしれない。

8曲目はこれまた新曲「オアシスと果樹園」!! イントロが鳴り響くと思わず「おおお」と声が漏れる。リリース前の曲であるにも関わらず、すっかり桑田ソロ楽曲として浸透していた。そのまま曲は「波乗りジョニー」!!! 間違いなくこの日一番の大歓声であった。誰もが一度は聴いたことがある夏曲のド定番である。水着のダンサーも登場し、すっかりフェスのステージは桑田一色だ。サビ前のクラップの一体感とサビの大合唱は如何にこの曲が愛されているかの証明でもあった。間奏ではファンなら見慣れたホースが登場し、大量の水を桑田が客席に放水すると、オーディエンスの興奮のボルテージは最高潮に達した(因みにロッキンは水撒き禁止らしいです笑)。
本編ラストを飾ったのは「ヨシ子さん」!!! 無国籍なサウンドが心地よいリズムを刻み、オーディエンスは《チキドン / チキドン》と声を上げる。観客にマイクを向けながらその様子を眺めている桑田もこの場を全力で楽しんでいるように見えた。恐らく何万もの人が目を疑ったであろうが、ダンサーの佐藤郁実が扮した"ヨシ子さん"もフェスデビュー!!! 桑田佳祐らしいお祭り騒ぎで本編のライブは終了した。

アンコールで登場した桑田は6万人に向けて感謝を述べると最後の1曲、ロッキンの2日目を締める1曲として「ROCK AND ROLL HERO」を搔き鳴らした。ダイナミックなバンドサウンドに会場はさらに熱を帯びていく。途中の歌詞がアレンジされ《今できる事はなんだ?》とリスナーに訴えかけるような強いメッセージ性を帯びた物になっていた。「ROCK AND ROLL HERO」ロックフェスの締めに相応しい1曲であった。

全ての演奏曲が終わりサポートメンバーと桑田が整列し深々と頭を下げると鳴り止まぬ拍手が送られた。桑田は何度も繰り返し感謝の言葉を口にし、同じGRASS STAGEで演奏した後輩アーティスト達を褒め称え「ありがとうおお!気をつけてねえ!バイバーイ!」と最後に叫ぶと名残惜しそうにステージを去っていった。
とにかく圧巻のステージであった。フェスというアウェイな空間を一発で打破していくその存在感と音楽は39年間に渡り日本音楽界の第一線で活躍し続けたミュージシャンの腕なのかもしれないが、それ以上の何かを桑田佳祐からは感じざるを得ない。秋から全国ツアーを開催する予定の桑田佳祐。今回のロッキンはそのツアーが素晴らしいものになると確信づけるようなライブであった。間違いなく現在進行形の桑田佳祐がそこにはいたのだ。(やまだ)