2016年の3月11日から2週間限定で公開されたRADWIMPS初のドキュメンタリー映画『RADWIMPSのHESONOO Documentary Film』が先月、待望のソフト化を果たし僕の元に届いた。

この映画は2015年にメジャーデビュー10周年を迎えたRADWIMPSがドラマー山口智史の病気療養というバンド存続の危機に直面しながらもサポートメンバーの加入、初のヨーロッパ公演も含む海外ツアー、豪華アーティストを招き入れた胎盤ツアー、そして幕張メッセでのワンマンライブを経て生まれ変わるまでの激動の3ヶ月に朝倉加葉子が密着したドキュメンタリー映画である。

当時このドキュメンタリー映画を見た時と今見た時の感触は全く違ったものになっている。それはこの1年間でRADWIMPSが映画『君の名は。』の劇伴を務め、大作『人間開花』をリリース、挙げ句の果てには紅白歌合戦出場まで成し遂げたという輝かしい大躍進が途轍もないスケールで展開されていったからだろう。

海外ツアーの様子、華々しい豪華アーティストとの対バン、普段は見る事の出来ない素のメンバー。ファンにとっては貴重な映像が積み込まれている訳だが、映画全体のトーンとしてはかなり重苦しい印象を受ける。少なくとも「10th ANNIVERSARY」といったお祭騒ぎにこの映画は仕上がってない。それはこの映画で語られた"優しい嘘"というキーワードが漠然として鑑賞者側の脳内に焼け付いてしまっているからだろう。このコラムではその優しい嘘についての僕なりの考えを少しだけ綴ろうと思う。

『RADWIMPSのHESONOO』の予告映像を見て頂ければ分かると思うが"優しい嘘"が今作のキーワードになっているのは一目瞭然である。それ故、映画公開後にTwitterで「優しい嘘の意味が分からなかった」という意見を多く目にした時は寂しくなったものだ。この映画の中盤。野田洋次郎に向けられたインタビュー映像で彼はこんな発言をしている。

「(智史の病気療養の)発表も本当は違う形でやるはずだったんだけど。脱退……それぞれが思う事、感情を本当に吐き出した文書を書いて……やっぱどうしてもそれを見たらもうショックだなあっと思ってファンは。それが誠実にいる事だと俺も思ってたけれど……。これは見せる必要がないんじゃないかなって思って、無期限活動休止で脱退じゃなくしようって……。まぁちょっと嘘はついてるけど、みんなの感情としては。でもあれは優しい嘘だからいいのかなとも思ってるし」

100分間に及ぶこの映画の真意は野田洋次郎のこの言葉に詰まっている気がするのだ。それに気づいていながらも脳が考える事を拒否しているファンの方も多く見かける。それくらいこれはインパクトの強い発言であった。ただこの映画に触れる以上、そしてこの映画を観た一人のファンとして僕は"優しい嘘"と向き合っていこうと思う。

要するにこうだ。RADWIMPSは当初、山口智史脱退という形でファンに公表するつもりだったが、それだとファンが精神的に大きなダメージを受けると考え、脱退という形式を無期限休止に変更。それは当時の状況からしたら嘘そのものであったが、RADWIMPSにとっては苦渋の決断から生まれた優しい嘘だったという訳だ。僕は当時それをこの映画で言ってしまった時点でそれはもう"優しい嘘"ではないじゃないかと思った。今もそう感じる部分はあるが、もう少しプラスに考える事もできる。それは現在のRADWIMPSを見て彼等の選択が間違いではなかったという確信があるからだ。"優しい嘘"はファンの為だけにつかれた嘘ではない。メンバー、関係者の方々が絶望の中で託した一種の希望みたいな物が"優しい嘘"には込められてる気がするのだ。正直、山口智史の復帰は現段階ではかなり厳しいものだと思う。でもその中でRADWIMPSが仕掛けた"優しい嘘"だけがファンにとっての救済であり10年先、20年先も生き続けるのだと思う。

脱退と言ってしまえばそれで終わり。でも無期限活動休止と言えば何かがあるかもしれない。曖昧な語り口ではあるが"優しい嘘"とはそう言う事なのだ。『つながりを断ち切って、人は生まれてくるんだよ。』これはこの映画のキャッチコピーである。このコラムを読んでくださった方々に今一度この意味を考えて欲しい。その行為がこの映画を観た意味にも繋がると思うのだ。コメント、Twitterで良かったらお気持ちを聞かせて下さい。最後に、この映画のタイトルだが正式には『RADWIMPSのHE・SO・NO・O』と中点が打たれている。なぜHESONOOを4等分にする必要があったのか。その訳はもう言うまでもないだろう(やまだ)


映画『RADWIMPSのHESONOO Documentary Film』Trailer)